Research
私達は、研究を通して新しい概念の創出を目指しています。これを通じて既存の材料・技術の問題点の解決に貢献します。
例えば、両親媒性高分子は、自己組織化することで、ミセル、シリンダー、ベシクルなど多彩な集合体を形成します。これらの集合体は、薬物運搬体への応用が盛んですが、そのサイズ・かたちは体内動態に影響し、治療効果を左右します。一方で、これらの集合体を自在に作り分けることや、大きさを制御することは容易ではありません。そこで、私たちは、様々なポリマーを合成・設計し、どのように自己組織化するのかをX線や中性子などの量子ビームや電子顕微鏡などを用いて明らかにして、分子組織体の構造やサイズを自在に制御する手法の開発に取り組んでいます。同時に、分子が組織化することで発現する機能についても調べています。さらに、その分子組織体を用いて医用反応場、人工細胞材料、人工分子チャネルなどのナノバイオ材料・システムへの展開も行っています。
1. 高分子フォルダマー: 生命分子に倣う高分子の自己組織化
天然の両親媒性高分子であるタンパク質は、ポリペプチド鎖に高次構造を記憶させています。そのため、変性剤でその高次構造を崩壊させても、適切な溶液条件に戻すと、元の構造へ復元します。一方で、人工の両親媒性高分子では、タンパク質のように特定のサイズかつ高次構造を持つ分子集合体のみを形成させることは、困難です。
我々は、親水性多糖の側鎖に温度応答性高分子であるpoly(propylene oxide)を導入した両親媒性グラフトポリマーを新たに開発し、冷却したポリマー水溶液を室温へと昇温するという簡単な操作のみで、特定のサイズかつサイズ分布の狭いベシクルのみを形成するポリマーの開発に成功しました。また、このベシクル溶液を冷却してベシクル構造を崩壊させても、再び温めれば全く同じサイズのベシクル構造が復元し、タンパク質と同様に高次構造を記憶していることも明らかにしました。本手法で得られた知見を活かすことで、特定の構造の分子集合体のみを自在に作り分ける新しい分子組織化技術につながると期待されます。
また、本手法を応用することで、異なる長さの1次元集合体を得ることもできます。ここで得られた集合体を用いて、マクロファージへの取り込み挙動を調べたところ、ある長さの1次元集合体がマクロファージから取り込まれにくいことも見出しています。
References
- Journal of the American Chemical Society, 2020, 142, 27, 11784, https://doi.org/10.1021/jacs.0c02290
- Macromolecules, 2021, 54, 14, 7003, https://doi.org/10.1021/acs.macromol.1c01030
- Chemical Science, 2022, 13, 5243, https://doi.org/10.1039/d2sc01674e
- Nano Letters, 2024, 24, 5838, https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.4c01054
2. 生命システムに倣った分子集合体の創製: DDSナノファクトリー、人工分子チャネル
ある種の両親媒性分子は、自己組織化することで、二分子膜により閉じた中空状集合体(ベシクル)を形成します。内水相に様々な化合物を封入できるために、DDSのキャリアや酵素反応場などとして使われてきました。一方で、これまでのベシクルは、分子透過性が著しく低く、外部から酵素基質などの分子を供給することができませんでした。
そのようななか、我々は、温度応答性高分子を疎水性セグメントとする両親媒性高分子が自己組織化すると分子透過性を示す高分子ベシクルを形成することを見出しています。これにより、基質を外部から供給できる酵素反応場として機能することや、腫瘍周囲で抗がん剤のプロドラッグを変換する医用反応場(DDSナノファクトリー)へと応用できることも明らかにしています。さらに、このような高分子をリン脂質からなるリポソームに組み込むことにより、人工分子チャネルとして機能することも判明しています。通常のベシクルは、分子透過性を全く示さないことから、分子透過性高分子ベシクルは、新たな分子集合体として材料科学の発展に寄与すると期待されます。
References
- Advanced Materials, 2017, 29, 36, 1702406, https://doi.org/10.1002/adma.201702406
- Journal of the American Chemical Society, 2020, 142, 1, 154, https://doi.org/10.1021/jacs.9b08598
- Chemical Communications, 2022, 58, 7026, https://doi.org/10.1039/D2CC02121H